CALICO : the PROJECT 手織布

カディの原風景を求めて

インドに旅するたびに、行く先々でカディ(手紡手織布)を求めたが、なかなか思い描いた理想のものに出会うことができずにいた。やがてデリーに住むようになって、たまに都会で見つけられる好い布の多くが、西ベンガルで織られていることが分かった。以来定期的に西ベンガルの村を訪れている。
それは村の機音を聞く旅でもあった。高速道路や駅から離れ、村に入って聞こえてくる心地の良いパタンパタンという音は、太古の昔から受け継がれてきたこの世界の心拍のようだ。
しかし、近年、その機音が遠くなりつつある。かつて「自分好みのサリーしか織りたくない」と言っていた織り師の機小屋には、ジャムダニ柄のポリエステルサリーを製造する機械が設置された。けたたましい音が、村の日常を蝕んでいるのは明らかだが、目先のことに忙しい人々の耳には届かない。
それでも、インド各地で、カディや手織布を続けたい熱意のある人々に会い、暗がりの中静かに陽を浴びる織機とその微かな機音を見出すたびに、そうしたことが幻影でなく、現実として繋がり広がっていくような世界を願わずにはいられない。

 

東インドの手織布

かつては東インドの大部分が、ベンガルと呼ばれる土地だった。現代では主に西ベンガル州を指すが、その土地は、古来より、蒸し暑い風土に適う、あるいは、湿度が高い土地だからこそ織ることができる細番手の綿布の産地として知られてきた。それは「風を織った布」と呼ばれ、紀元前後よりローマの人々を魅了したといわれている。今日でも通称カディと呼ばれるコットンの手紡手織布をはじめ、緯糸文様織の技法を使ったダッカ発祥の伝統布ジャムダニや、バルチャリサリーなどの伝統的なジャガード織、アッサムやビハールなどを原材料の供給地として、その近くで織られたシルクの布などがある。
CALICOでは、モスリンカディ、うっすらカディ、しっくりカディと呼んでいる定番のコットン手紡手織布を柱に、古典柄のジャムダニの復元を行う。また、近年では、サリーを纏うベンガル女性たちに触発され、彼女たちに教わったジャガード織のサリーにインスパイアされた布も作っている。


デニムカディを手がける織り師


しっくりカディ
photo by Haruhi Okuyama


ジャムダニの技法でタゴールの言葉を織り込んだタッサーシルクの布
Photo by Haruhi Okuyama, Modeling by Chisa Matsumoto

西インドの手織布

様々な災禍に見舞われてきたグジャラート州カッチでは、1970年代より様々なクラフトが奨励され、新しい伝統ともいうべき織りの仕事が伝えられてきた。
その中で注目すべきなのは、古来より彼の地に伝わるとされる在来種のコットン、通称カラコットンだ。NGO Khamirなどを中心に、カラコットンの利用によって地域性をうまく訴求した織りの仕事を創出するプロジェクトが始まった。詳しくは Project_KALA COTTON
また同じようにして、牧畜民の生活文化や彼らの扱う原種ウールを保護する機運が高まっている。規模は限定的ではあるが、原種ウールを用いた手紡手織布も作られている。


ペティチャルカカディを織る青年。2023年 協力:Khamir

CALICOでは、アンバーチャルカを使ったカラコットンカディの他、近年ペティチャルカを使ったカラコットンカディを積極的に紹介している。また、原種ウールについては、主にVankar Vishram Valji家にその営みについて教えを乞う傍ら、様々な布を手掛けてもらっている。


Vankar Shamji Valji 氏によるワークショップの様子。2025年


Vankar Shamj Valji氏と共同でお作りしている原種ウールのコート
Photo by Haruhi Okuyama, Modeling by Chisa Matsumoto

南インドの手織布

南インドでは、今でもサリーやドーティ、ルンギと行った一枚布を纏う文化が色濃く残っている。全国的に名高いカーンチープラムなどのシルクサリーのイメージが強いが、コットンの生産地に近いこともあり、村々で日用のコットン布が織られている。ベンガルに比べると番手が太く、織密度も低い(粗い)が、インターロックによる独特のボーダーデザインやイカット(絣)など、南インドならではの見ごたえのあるデザインの布も多い。近年、村で織られているものの多くは、「カディ」と言いながらも、電動モーターを付けた機で織られているか、丸ごと機械で織られたものが大半で、化繊や化繊混のものも多いが、南インドならではの豊かな配色には目を惹かれる。
タミルナドゥ州やカルナタカ州では、近年在来のコットンを復元して広めようとする動きがあり、一部の手織りのセクターがそれに呼応している形だ。CALICOでは、タミルナドゥ州で現地の活動家であるKaskomに依頼し、在来種であるカルンガニコットンを手がけてもらっている。また、南インドのさまざま産地に足を伸ばし、日本に渡ってきた手織布である唐桟・唐桟留の源流を探るプロジェクトを行っている。


カルンガニコットンの綿。協力: Kaskom  Photo by Yayoi Arimoto


カルンガニコットンのトップス。Photo by Haruhi Okuyama, Modeling by Chisa Matsumoto